テーマ

大きな屋根の家

第50回を迎える今年のテーマは「大きな屋根の家」です。
「大きな」「屋根」「家」からなにをイメージし、どのような建築が考えられるでしょうか。

「大きな」は、
物理的な屋根の大きさを意味するだけではなく、
比喩として捉えて、社会のまとまり、
地球のような規模の集合体と解釈してもよいでしょう。

「屋根」は雨風、日差しをしのぐ建築の原型ですが、
「大きな屋根」はなにを守り、そのまわりにはどのような空間が広がっているのでしょうか。
自然や暮らし、日常、地域、安心、繋がり・・・・・・
身の回りや世界の事柄に想像力を働かせるだけではなく、
過去の文献や新しい技術の中にもヒントはあるかもしれません。
言葉を文字通り解釈するのではなく、
おおらかな明るさを持って発想を広げてください。

1974年開催の第1回から半世紀を経て、
日新工業建築設計競技は原点へと立ち返り、
建築の原型を再び考えたいと思います。
これからの時代に繋がる「大きな屋根の家」。
みなさまのご応募をお待ちしております。

西沢立衛

人種や性別、階級、宗教、信条、思想などの違いを越えて、皆で共有できるものとして、建築の空間があり、大きな屋根があります。それは多元主義の象徴でもあり、多様性の建築化でもあります。どんな場所にどんな人々が集うのか、大きな屋根とは何を意味するのかなど、具体的に考えて提案してください。私たちの未来を感じさせる「大きな屋根の家」を期待します。

平田晃久

屋根とは何か。これほど建築にとって根源的かつ多様な応答を誘発する問いはありません。たとえば僕なら、屋根とは、水の流れというものの本性が人の手を借りて顕在化したものである、というでしょう。また、屋根はどのような意味で「大きな」ものであり得るでしょうか。さまざまな遡り方で発見的なアプローチを見つけてください。

吉村靖孝

「大きな屋根のある家」を考えると、立派で豪華な屋根のある家を想像してしまう。その屋根の勾配や高さは、日当たりや雨水の排水に配慮しただけでなく、暮らしや敷地などさまざまな根拠に基づいたものだろう。一方で、大きな屋根があるなら、小さな屋根もあるのではないか、とも思う。屋根の大きさは、主体のサイズで変わるからだ。「小さな屋根」を妄想し、みなさんの提案を待ちたい。

羽鳥達也

宇宙の宀は屋根を意味しており、宇宙という最大の空間の輪郭を、屋根と捉える宇宙観を日本人は持っていた。巨大な山脈、家族のような集団の象徴、雨宿り際の樹木など、屋根に例えられるものは無数にある。具体的なテーマであるが、幅広い解釈ができる原点回帰したテーマから、半世紀先をも見通すような建築を期待したい。

藤村龍至

わが国ではたとえば宗教建築などで屋根の大きさで権威を示すとされた伝統もあり、近代化の過程では陸屋根を用いたり、その後は集落を模して多くの屋根を重ねたりすることで屋根を「小さくする」挑戦もなされてきたが、ここではそのような物理的な大きさ/小ささの対立を超えた、新しい屋根の像を示してほしい。

相臺志浩

「建築文化の発展に寄与したい」という思いから始まった日新工業建築設計競技は、50回という大きな節目を迎えました。建築家への登竜門として皆様に愛されてまいりましたことを心から感謝申し上げます。私たちに馴染みの深い「屋根」にまつわる新たなアイデアを楽しみにしています。

結果発表

結果発表

佳作

JONATHAN TSUN HONG YEUNGYY Projects

WING YEE YUENYY Projects

佳作

VALERIIA BURKOVATIArch Studio, Kazan State University of Architecture and Engineering

作品講評

作品講評

西沢立衛審査委員長

わかりやすく親しみやすい課題で多くの応募があった。同様に応募案のほうも、わかりやすく親しみやすいものが集まった。
1等に輝いたSVETOVIDOVA案は、応募案の中でもぶっちぎりに大きな屋根で、まるでロシアの大地そのもののような雄大な大屋根に圧倒された。小林案(2等)は、雨を防ぐべき屋根が雨を通し、雨水を濾過して浄化するという案で、逆転の発想というべき屋根の役割の転換が新鮮だった。小出・山倉案(3等)は、衣服のような家の提案で、ルイス・カーンのルーム思想をそのまま建築化したようなダイレクトさがインパクトを持った。要素の多さにもかかわらず、家としての一体性があるのも印象的だ。
高城案(佳作)は、焚き火によって浮遊する大屋根の提案で、きわめてSF的かつ原始的な空中屋根のアイデアに魅力を感じた。光永案(佳作)は、沖縄地方の水屋根で雲屋根をつくるもので、愛らしく楽しい案だ。山崎案(佳作)は、巨大屋根の住宅で、たいへん面白いような、疲れるような、不思議な家だ。西本・岡倉案(佳作)は、大気圏を突き抜ける高さの塔状住宅の提案で、大真面目にディテールを考えているところにユーモアを感じた。岩崎・三枝案(佳作)は、屋根の単位を問題視する案で、視点が新鮮であった。WINAGA案(佳作)は、複数の屋根が水滴の群れのように集まる屋根群で、イメージの美しさが評価された。YEUNG・YUEN案(佳作)は、軽量素材のロール状屋根を開いていって、いろいろな屋根を自由につくっていくという、いわばDIY屋根で、アイデアの軽妙さに魅力を感じた。屋根を支える木造骨組みもその都度かわいらしく、センスのよさを感じる。BURKOVA案(佳作)は、プレゼンテーションの絵のロマン性は多少ついていけないところもあったが、地球全体に屋根をかけるという単純さには魅力を感じた。

平田晃久審査委員

「大きな屋根」は、暴力的なものにもなり得る。異なる特性を持った多様なものたちを、ひとつの屋根で統合してしまうこと。全体主義にも通じる、大屋根の押し付けがましさを超えて、これからの時代の「大きな屋根」を、いかに構想できるか。そんなことに関心を持って審査にあたり、楽しく議論することができたのは幸いである。
SVETOVIDOVA案(1等)は、壮大なランドスケープそのものが大きな屋根であるという、突き抜けた構想を提示している。近未来の都市は、これほどまでに風景と溶け合うのかもしれない、という新しいリアリティが自分の中で立ち上がるのを感じた。小林案(2等)は、屋根そのものの概念を変える、多層に水が浸透、浄化される新しい「屋根」の提案である。小出・山倉案(3等)は、衣服のように身体を包む屋根という発想を過激に動的に多層に展開している新鮮さがあった。これらはいずれも驚きを感じる優れた提案だったが、2等、3等の多層性は内部/外部のグラデーションにとどまっていたのに対し、1等はそういう内部性を突き抜けた価値観を提示しているように、個人的には思われた。
その他、興味を覚えたのは、高城案(佳作)の炎によってゆらゆらと立ち上がるユーモラスな美しさを持った屋根の提案や、光永案(佳作)の沖縄における水屋根と雲発生装置をかけ合わせた気象的建築、WINAGA案(佳作)の水滴の流れのような離散的に連続する屋根などである。
BURKOVA案(佳作)の地球に傘をかける絵にも惹かれたが、天体的なものという幻想のもとでは、暴力的なものすら美しいファンタジーになってしまうということへのアイロニーも感じた。

吉村靖孝審査委員

今年は、ロシアからの応募が数多く見られた。審査を終え最初にSVETOVIDOVA案(1等)の裏書きを見て、ロシアからと知った際にオーッと声が上がった。よく見ると手前の緑の下に建築が描かれているのだが、そうやって気がついてしまうと、蛇行する河川の上流のほうまで、この建築が埋め込まれているのかもしれないと思った。そんな妄想がつい頭をよぎる作品である。
それから次々と作者が明らかになるのを見守っていると、最後に発表されたBURKOVA案(佳作)がロシアからの作品で、もう一度驚いたのである。「大きな屋根の家」というアイデア・コンペティションに、なぜロシアが多かったのか知るよしもないのだが、しかしなんらかのかたちで戦争が影響しているかもしれないと思った。見ようによっては、どこともつかないなつかしい風景のように見えるSVETOVIDOVA案も平和を祈る空間のようでもあるし、BURKOVA案の提案にいたっては、地球を覆う大きな屋根のプロジェクトである。地球をひとつの船とみるアイデアから、平和を連想せずにはいられない。ここに解釈を披露するのは適切ではないかもしれないが、そんなことを思った次第である。
一方、ウクライナからはいっさいの応募がなかった。作品を出すような状況ではないかもしれないが、いつか応募につながればいいなと心から願う。

羽鳥達也審査委員

いま、大きな屋根を考える意味はなんだろう。このテーマに対してもっとも批判的に見えたのが岩崎・三枝案(佳作)である。屋根を描かず、屋根下のそれぞれの空間のみを散文詩のように表現することで、屋根を考えさせる挑発とも読める。確かにそれによって想像される屋根は無限に等しい広がりを持つだろう。一見、頓知のようにも感じるが、枠組みの外に出ようとする態度はあって然るべき。
小出・山倉案(3等)については、衣服そのものを屋根に使おうとしている点は他にはない提案だった。ダイニーマのような鉄の15倍の強度をもつ繊維が開発され、布類のリサイクルが広まっていることなどを考えると、現実性の薄い案ともいい切れない。何より屋根は確かに家や住み手の個性を表す側面があり、その広がりを以て大きな屋根とした視点にはなにか希望がある。
小林案(2等)は、床スラブが地層のようにフィルタと化し、水は配管に隠されることなく、その移動に目に見える住環境が示されている。現代ではカビや湿気が問題になりそうだが、濾過や膜の技術的進展は目覚ましく、殺菌され偏りがある環境より多様な菌がいる環境のほうが、人の健康に望ましいことが分かってきている時代性を踏まえれば、今後、多くの人が望む環境として反転する可能性もある。
SVETOVIDOVA案(1等)は、どこからが屋根でどこからが地表なのかわからない世界が、瑞々しい水彩によって描かれている。これは現代人に潜在するユートピアの姿のひとつだろう。思えば、コンクリートを微生物の作用によって修復したり、生体素材を建材にして炭素を固定しようという試みも増えてきている。都市と自然の境目が見えない環境は、新しい技術によって可能になる未来像かもしれない。
今回、具体的でハイコンテクストな提案と、巨視的な提案に大きく分けられるが、愚直に大きな理想を示したSVETOVIDOVA案が1等に選ばれたのは、50周年を迎えたこのコンペに相応しいと思った。

藤村龍至審査委員

「大きな屋根の家」という題に対し、山崎案(佳作)、西本・岡倉案(佳作)、岩崎・三枝案(佳作)はストレートに思考を巡らせたコンセプチュアルな案であった。他方で日新工業建築設計競技らしいと呼べる提案もあり、高城案(佳作)、YEUNG・YUEN案(佳作)などは近年の入賞作に、また小林案(2等)、光永案(佳作)、WINAGA案(佳作)などは通称「水コン」と呼ばれるコンペの伝統に、それぞれ通じるビジュアルであった。
日新工業は関東大震災の前年1922年に創業したので、震災復興とともにスタートした会社である。てっきり鉄筋コンクリート造のビル建築が増え、陸屋根が増えたため急成長したのかと思いきや、社長であり審査委員でもある相臺志浩氏によれば、震災直後のバラックに使うシートが「便利瓦」と呼ばれ、業績として先行したのだという。そのような経緯を踏まえると、小出・山倉案(3等)は身の回りにあるものを纏うという原点に回帰したバラックのような建築であり、日新工業建築設計競技らしい作品であることに気づく。
また防水シートは建築だけでなく、畦道が崩れないよう田んぼにも用いられたそうだ。そう見ると、SVETOVIDOVA案(1等)に描かれた広大な風景も防水技術に裏打ちされた新しいヴィジョンに見えてくる。1ビジュアル・1アイデアの強い紙面は全球的な自然回帰を明快に宣言しており、次の50年を占う回の1等にふさわしいと感じる。

受賞作品展示会

受賞作品展示会

会場 建築会館ギャラリー
所在地 〒108-8414 東京都港区芝5丁目26-20 建築会館 1F
展示期間

2024年2月13日(火)12:00~19:30

2024年2月14日(水)9:00~19:30

2024年2月15日(木)9:00~19:30

2024年2月16日(金)9:00~16:00

ウェブサイト https://www.aij.or.jp/

賞金

賞金

  • 1等[1点]
  •  
  • 100万円
  • 2等[1点]
  •  
  • 50万円
  • 3等[1点]
  •  
  • 30万円
  • 佳作[8点]
  •  
  • 各10万円
総額 260万円/すべて税込

スケジュール

スケジュール

応募登録開始
作品受付開始
応募登録終了
作品受付終了
結果は入選者に通知いたします
2023年11月22日(水) 表彰式
2024年1月   『新建築』2024年1月号で発表いたします

応募要項

応募要項

全て展開

登録方法

インターネットにて登録の場合は、本サイトの登録フォームよりご登録ください。


官製ハガキにて登録の場合は、下記作品送付先までご登録ください。


FAXにて登録の場合は、03-5244-9338までご登録ください。



  • インターネット登録には、「KENCHIKU」サイトのID・パスワードが必要となります。お持ちでない方は、ID・パスワードを登録後、本コンペの登録を行ってください。
  • 官製ハガキとFAXにて登録の場合「日新工業建築設計競技係」と明記し、住所、氏名(ふりがな)、年齢、電話番号、勤務先あるいは学校名(学年)、所在地、電話番号、e-mailアドレスを書き添えてお申し込みください。
  • ご登録いただいた方には登録票をお送りいたします。
  • 複数の作品を応募する場合は、作品ごとに登録してください。
  • 登録のお問合せ:日新工業建築設計競技事務局|03-5244-9335

用紙

A2サイズ(420mm×594mm)の用紙(中判ケント紙あるいはそれに類する厚紙)1枚におさめること。模造紙等の薄い用紙は開封時に痛む恐れがあるので避けること。ただし、パネル化・額装は不可。

提出図面

配置図・平面図・立面図・断面図、透視図・模型写真など、設計意図を表現する図面(説明はできるだけ図面のみですること。各図面の縮尺は自由)。表現方法は、青焼、鉛筆、インキング、着色、写真貼付、プリントアウトなど自由。

登録番号の記載 & 登録票

提出方法 & 作品送付先

下記へ送付してください。


日新工業株式会社「日新工業建築設計競技係」[必ず明記のこと]

〒120-0025 東京都足立区千住東2-23-4

TEL:03-3882-2613


  • 持込み、バイク便は不可。
  • 開封時に痛みやすいため、円筒状の梱包はご遠慮ください。

その他

  • 応募作品は未発表の作品に限ります。
  • 本設計競技の応募作品の著作権は応募者に帰属しますが、入賞作品の発表に関する権利は主催者が保有します。
  • 応募作品は返却いたしません。
  • 同一作品の他設計競技との二重応募は失格となります。
  • 応募作品の一部あるいは全部が、他者の著作権を侵害するものであってはなりません。また、雑誌や書籍、Webページ等の著作物から複写した画像を使用しないこと。著作権侵害の恐れがある場合は、主催者の判断により入賞を取り消すことがあります。
  • 入賞後に著作権侵害やその他の疑義が発覚した場合は、すべて応募者の責任となります。
  • 入賞後の応募者による登録内容の変更は受け付けません。
  • 応募に関する費用(送付・税金・保険など)は、すべて応募者の負担となります。
  • 課題に対する質疑応答はいたしません。
  • 規定外の問題は応募者が自由に決定すること。

審査委員

審査委員

後援

2023年10月2日(月)24:00 応募登録終了