自然のうえに暮らす
LIVING upon the NATURE 自然のうえに暮らす

コンペ開催期間 2019年4月-2020年1月

結果発表

テーマ

LIVING upon the NATURE
自然のうえに暮らす

課題文

「自然」をどのように捉えるかが、現在のわれわれに問われています。

 

たとえば「人新世」という言葉。

二酸化炭素の大量排出、大規模な開拓など、人類の活動が地球環境に多大な影響を及ぼすことで生まれる新しい地層のことで、完新世の後の地層年代として提唱されています。

地球は人類の影響を受けやすく、このような不安定な地球で、われわれはどのように暮らせばよいのでしょうか。

 

ランドルフ・T・へスター氏の書籍『エコロジカル・デモクラシー ―参加型社会と生態的多様性をつなぐデザイン』(鹿島出版会、2018年)では、エコロジーとデモクラシーを同時に捉えることで、自然と人間の営みの関係を考えさせます。

 

地球温暖化、ゲリラ豪雨、爆弾台風など、気象の変化と共に暮らすことも考慮しなければなりません。

 

そこで、今回のテーマを「自然のうえに暮らす」としました。

身の回りの問題でも差し支えありません。

もう一度、自然とは何であるか、暮らしとは何であるかを考えてください。

みなさんの提案をお待ちしています。

 

審査委員コメント

「自然のうえに暮らす」という言い方は、表現として多少おかしな表現と思われるかもしれません。それは、自然の中の快適な別荘というようなイメージよりは、地球史の上に暮らす、という意味に捉えられるし、または、地球環境という大きな文脈を踏まえて暮らす、と捉えるのでも構いません。地球と人間の豊かな関係を示唆する建築・都市を期待しています。

― 西沢立衛

自然の中に人工があるのでも、人間が完全に自然をコントロールするのでもなく、人間と自然が互いに包摂し合う世界の中に、今世紀の私たちは生きています。私たちの時代を画する建築とは、そんな世界のありようそのものを鮮やかに建築化したものに違いない、そう思います。

― 平田晃久

「自然のうえに暮らす」の「うえ」について慎重に思考を巡らせてください。「なか」だとすると豊かな森に溶け込むような生活を連想しますし、「とも」だと「共生」というタームが浮かびます。「うえ」は自然の存在を前提とした都市の生活さえ包含しているように思います。自然に対する新しい認識と呼応するような提案を期待しています。

― 吉村靖孝

人の営みがもたらす地球規模の環境への影響が顕在化し、人新世という言葉が多用されている現状は、人や都市と自然は連続して常に関係し、混ざりあっているものという認識の広まりを示していると思います。一方で多発する災害は人と自然がやはり別のものという認識をもたらします。そうした混沌とした自然観、世界観はどのような暮らしにリアリティを感じるのか。多様な視点を期待します。

― 羽鳥達也

「自然のうえに暮らす」という想像力を導入することは、私たちの目の前にある課題に対する視野を大きく拡張し、厳しい変動が予想される未来の社会に対して新しい将来像を描くことを可能にしてくれます。そのような新しく、大きな絵の描き手の登場を期待します。

― 藤村龍至

太古の時代より人類は豊かな発想力と知恵を用いて発展し、文化を形成してきました。本来自然とは人為の加わっていない素の状態であり、その摂理を変えることができる人類は責任が問われます。私たちは建築を通じていかに自然と共存していくか、あるいは……。皆さんの未来への提案を楽しみにしております。

― 相臺志浩

結果発表

一等

上野 純東京理科大学大学院

二等

ZHANG KEArizona State University

三等

JUAN CARLOS EUGENE SOLERAtelier Soler: Building and Spatial Design

佳作

XIA CHENmusumanoco

佳作

GIACOMO SPANIOa.crònoatelier

PAOLO REALIa.crònoatelier

NICOLA PUPPINa.crònoatelier

SERGIU CERNEAa.crònoatelier

佳作

ANNE GROSSStudio GROSS

SEBASTIAN GROSSStudio GROSS

佳作

楠川 佳歩武庫川女子大学大学院

太田 紅葉武庫川女子大学大学院

佳作

ADRIAN HAWKERESALA, The University of Edinburgh

佳作

DAI BINGFreelance

佳作

門田 健嗣+ft+/髙濱史子建築設計事務所

佳作

森下 啓太朗近畿大学大学院/フーシャアーキテクチャ

森 史行フリーランス

作品講評

西沢立衛 審査委員長

今年は審査が予定時間をオーバーしてしまった.難しいテーマであるにもかかわらずよい案が多く出て,突出した案がなく各案拮抗した.
上野案(1等)は,農道の側溝の中に生物多様性の世界を見出すプロジェクトで,ミクロな世界にマクロな世界が登場するという無限円環的な面白さがある.他方で日本男児的な脆弱さと内向性があり,意見はずいぶん分かれた.例年,実力差が激しく海外勢に圧倒されてきた日本勢だが,力のなさが海外勢の中で逆に個性として目立ってしまったことは皮肉とも言えるし,客観的現実とも言える.
KE案(2等)は逆に,パワー溢れる大陸的ダイナミズムを備えた案であった.「都市のイメージ」を地球に適用しようという雰囲気の案で,「都市のイメージ」と本作品の詳しい関係性はよくわからなかったものの,理屈を超えた迫力があった.
SOLER案(3等)は洪水に負けずに村を再建する話で,大災害にも全然くよくよしないその底抜けの明るさとタフさが素晴らしい.
GROSS案(佳作)は,人類史を物の歴史として眺める,その突き放した客観性に力を感じた.特に地層を断面でなく真上から見る視点は優れている.
楠川・太田案(佳作)は日本人案と聞いて驚いたが,中国的と言える大陸の力強さとスケール感を感じ共感した.
門田案(佳作)は,ゴミで神社を建立するアイデアが優れており,また縄文的世界に立脚した点に魅力があった.

平田晃久 審査委員

人間活動が地球を覆い,自然環境そのものを無視できない時代になっている.もはや私たちは自然環境の中に住んでいるというよりも,互いに包摂しあうような関係にあると言っていい.「自然のうえに暮らす」というタイトルにはそんな現代的な問いが暗示されている.そういう意味での,自然に対する乾いた視線を突き詰める方向性は,惜しくもトップ3を逃したものの中にあったかもしれない.
CHEN案(佳作)は,人間によってつくられる構築物が,砂漠のような自然環境を緑が育つようなものに癒していく,スケールの大きな提案である.徹底して抽象的なプレゼンテーションが新鮮だった.
門田案(佳作)は,人間活動の集積がつくり出すゴミの風景すらもある種の自然と捉え,それを祀る神社を廃棄物を素材につくる案で,知的なアイロニーに満ちている.もしこの案がアイロニー以上の何かを示し得ていたら最優秀に選ばれていたかもしれない.
1等になった上野案は,用水路のささやかなスケールの中にも,建築的インフラストラクチャーのようなものが介在する余地があり,人間のためだけでない建築の可能性があることを,ささやかながら鮮やかに示した.
個人的にはその他,BING案(佳作)も,都市をその下に眠っている地層の成り立ちまで遡って三次元的に捉える視線が新鮮だった.自分自身,この課題をめぐる議論や審査過程での議論から,考えさせられることがたくさんあった.これからの仕事に反映させられればと思っている.

吉村靖孝 審査委員

1等の上野案は,農業用水路に小さな建築を沈めて生態系を回復し,魚網(もしくは虫取り網)を通すことができ,しかも子供靴は落ちないサイズの穴が空けられたグレーチングで,生物と生活の接近を試みるという実にささやかな提案である.だがそのささやかさにこそ,課題に対する鋭い批評が込められているように感じた.
今年のテーマは「自然のうえに暮らす」である.「自然の『なか』に暮らす」ならわかるが,「うえ」は耳慣れない.つまりは,自然の「なか」で心地よく生きるだけでなく,人間が手を加え続けてなお自然と呼んでいるそれを,半歩外から相対化せよということである.多くの応募者もそう捉えてくれて,美しくも刺激的な提案が集まったのだが,「うえ」にはどうも「人類はついに自然を掌握した」という誤った認識を呼び覚ます力もあるようで,提案が如何せん大きいのである.箱庭の自然と田園風景を重ねて見せる上野案は,力を誇示することなく相対化が可能であることを示しており,私自身が気づきを得た.
佳作のGROSS案は,地面を穿ったような層状のインスタレーションで,地質年代のクロノロジーを白日に晒すモニュメントの提案と理解した.誌面では見えないだろうが,実は,応募用紙に複数の穴が空いている.空いた穴から見える机が,作者の定義した人新世(じんしんせい)の起点=樹脂製であったことは,できすぎた偶然であった.

羽鳥達也 審査委員

建築と自然の関係を考えるにあたって,これから科学的なFACTがますます重要になるだろう.科学的なリテラシーの向上は,すべての問題に絶対的な解答はなく,すべてが確率的で,われわれを取り巻く世界が,不確実性に包まれた複雑な状態であることを多くの人が知ることを意味する.建築家にとっての「確信」や「信念」と,それを基にした唯一無二の解としての建築も,無数にある正解のひとつとして捉えられる世界になっていく.「自然のうえに暮らす」というテーマに対して集まった提案を拝見し,こうしたVUCAの時代に,FACTを知ったうえでそれを乗り越え,再び信じられるものを見出せるかが重要だと感じた.
1等の上野案は,まさにこれを体現した提案であった.足元にある自然を丁寧に観察し,確たるものを捉え,われわれの生活の根底にある小さな生態系をより豊かに育むことで,そのうえの暮らしを変えてしまうような提案.小さな生物たちが立体的な都市に暮らす人びとのように描かれ,じっとそれを観察する子供が描かれている.この瑞々しいドローイングに,こうした小さな提案こそが人を変え世界を変えうるのではと思わされた.
2等のKE案は,都市や建築と自然の新しい融合の仕方をなんとか見出そうとする葛藤を強く感じた作品.その予定調和的でない挑戦を高く評価した.
3等のSOLER案は,海面上昇という避けられない未来に対して,当たり前のことのように現実的に考えられた提案で,そこにたくましく暮らす人びとに奇妙な希望を感じた.

藤村龍至 審査委員

今秋の私たちの日常を襲ったいくつかの台風の後だったこともあり「自然のうえに暮らす」は独特の緊張感の中で審査が行われた.
1等の上野案は幅600mmの排水溝の中の小さな自然を扱う.地球や森林など「大きな」エコロジーを扱う案が多い中で独自の切り口を提示したことが鮮やかであり,同時に人間中心の議論を相対化する意味で現代的な提案にもなっていると思うが,人間そのものの政治性が描かれていない点は議論の余地があろう.
2等のKE案はケビン・リンチの『都市のイメージ』を読み替えようとする,力強いドローイングとテクストによって文脈を理解することはできるが,イメージとテクストだけであり,ビジュアルアートの手法に近づき過ぎ,建築的な構築性を活かせていないようにも感じる.かつてのリンチのように都市の輪郭を問題にしていた時代は過去のものとなり,今日では地球の輪郭が問題となっているというメッセージを読むべきなのかもしれない.
3等のSOLER案はスラムを洪水によって浮かすという対処法を提示する.悲観論ではなくあえての楽観論で日常を少しでも豊かにしようというメッセージであろう.上野案のミクロ,KE案のマクロの対比はともに印象的であるが,相次ぐ台風の中で温暖化の脅威を感じたり,迫りくる台風の中で河川流域の一体性を感じた経験をもとに振り返ってみると,イタリアで議論されている「テリトーリオ」の概念のような,ミクロの建築単体レベルの環境性能とマクロの地球環境のあいだの新しい空間単位を考える必要を感じる.

受賞作品展示会

会場 建築会館ギャラリー
所在地 〒108-0014 東京都港区芝5丁目26-20 建築会館 1F
展示期間

2020年2月12日(水)12:00~19:30

2020年2月13日(木)9:00~19:30

2020年2月14日(金)9:00~16:00

ウェブサイト https://www.aij.or.jp/

賞金

  • 1等[1点]
  •  
  • 100万円
  • 2等[1点]
  •  
  • 50万円
  • 3等[1点]
  •  
  • 30万円
  • 佳作[8点]
  •  
  • 各10万円
全て税込
  • 「新建築」2020年1月号で発表
  •  建築会館ギャラリーにて展示:2020年2月12日(水)~ 14日(金)

スケジュール

2019年4月1日(月) 応募登録開始
2019年8月19日(月) 作品受付開始
2019年10月1日(火) 応募登録終了
2019年10月4日(金) 作品受付終了
結果は入選者に通知いたします
2019年11月20日(水) 表彰式
2020年1月 『新建築』2020年1月号で発表いたします

応募要項

登録方法

インターネットにて登録の場合は、本サイトの登録フォームよりご登録ください。

官製ハガキにて登録の場合は、下記作品送付先までご登録ください。

FAXにて登録の場合は、03-5244-9338までご登録ください。

  • インターネット登録には、「KENCHIKU」サイトのID・パスワードが必要となります。
    お持ちでない方は、ID・パスワードを登録後、本コンペの登録を行ってください。
  • 官製ハガキとFAXにて登録の場合「日新工業建築設計競技係」と明記し、住所、氏名(ふりがな)、年齢、電話番号、勤務先あるいは学校名(学年)、所在地、電話番号、e-mailアドレスを書き添えてお申し込みください。
  • ご登録いただいた方には登録票をお送りいたします。
  • 複数の作品を応募する場合は、作品ごとに登録してください。
  • 登録のお問合せ:日新工業建築設計競技事務局|03-5244-9335
提出図面

配置図・平面図・立面図・断面図、透視図・模型写真など、設計意図を表現する図面(説明はできるだけ図面のみですること。各図面の縮尺は自由)。表現方法は、青焼、鉛筆、インキング、着色、写真貼付、プリントアウトなど自由。

用紙

A2サイズ(420mm×594mm)の用紙(中判ケント紙あるいはそれに類する厚紙)1枚におさめること。模造紙等の薄い用紙は開封時に痛む恐れがあるので避けること。ただし、パネル化・額装は不可。

登録番号の記載

応募図面の表面右下に、30ポイント以上の文字の大きさで登録番号のみを明記すること(登録番号はNからはじまる5桁の数字を明記。また、登録番号以外の応募者を特定できる情報は記載しないこと)。また、裏面には必要事項を記入した登録票を必ず貼付けること。

質疑

課題に対する質疑応答はいたしません。
規定外の問題は応募者が自由に決定すること。

提出方法

応募作品裏面に必要事項を記入した登録票を貼付けた上、下記へ送付してください。
(※持込み、バイク便は不可。なお、開封時に痛みやすいため、円筒状の梱包はご遠慮ください)

作品送付先

日新工業株式会社「日新工業建築設計競技係」[必ず明記のこと]

〒120-0025 東京都足立区千住東2-23-4

TEL:03-3882-2613

その他
  • 応募作品は未発表の作品に限ります。
  • 本設計競技の応募作品の著作権は応募者に帰属しますが、入賞作品の発表に関する権利は主催者が保有します。
  • 応募作品は返却いたしません。
  • 同一作品の他設計競技との二重応募は失格となります。
  • 応募作品の一部あるいは全部が、他者の著作権を侵害するものであってはなりません。また、雑誌や書籍、Webページ等の著作物から複写した画像を使用しないこと。著作権侵害の恐れがある場合は、主催者の判断により入賞を取り消すことがあります。
  • 入賞後に著作権侵害やその他の疑義が発覚した場合は、すべて応募者の責任となります。
  • 入賞後の応募者による登録内容の変更は受け付けません。
  • 応募に関する費用(送付・税金・保険など)は、すべて応募者の負担となります。

審査委員

審査委員長

西沢 立衛

Ryue Nishizawa

審査員

平田 晃久

Akihisa Hirata

審査員

吉村 靖孝

Yasutaka Yoshimura

審査員

羽鳥 達也

Tatsuya Hatori

審査員

藤村 龍至

Ryuji Fujimura

審査員

相臺 志浩

Yukihiro Sohdai

応募登録終了
2019年10月1日